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日本コカ・コーラ株式会社の導入事例:Cloud Vision API で、SNS の投稿画像を解析し、これまで見落としていた「ドリンキング・モーメント」を発掘する

2019年1月30日
Google Cloud Japan Team

今や常識となっている SNS を使ったユーザー動向調査。今回紹介する、日本コカ・コーラ株式会社の取り組みは、それを新たな次元へと引き上げるものになりそうです。その革新性と、この画期的なアイデアを実現するために Google Cloud Platform がどのように活用されているのかを、今回のプロジェクトを牽引した同社経営戦略本部のお二人と、この取り組みを技術面からサポートした株式会社ブレインパッドの担当者に聞いてきました。

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利用している Google Cloud Platform サービス

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日本コカ・コーラ株式会社

米国ザ コカ・コーラ カンパニーの日本法人。清涼飲料水の製品企画、研究開発、原液製造、宣伝・マーケティングなどを行う。従業員数は 487 人(2017 年 3 月 31 日時点)。炭酸飲料「コカ・コーラ」のほか、「ジョージア」、「爽健美茶」など多くのメガブランドを擁する。

写真右から

  • 経営戦略本部 コンシューマー&コマーシャルナレッジ&インサイツ
    ディレクター 小林 康二氏
  • 経営戦略本部 ナレッジ&インサイツ フォーサイト&イノベーショングループ グループマネージャー 森口 誠氏
  • 株式会社ブレインパッド アナリティクスサービス本部
    アカウントマネージャー 早川 遼氏

リアル マーケティングの世界に AI 技術を持ち込むというチャレンジ

日本コカ・コーラ株式会社は、ザ コカ・コーラ カンパニーのワールドワイドにおける重要拠点の 1 つとして、これまでも綿密な市場調査を行っており、さまざまな手法で、自社製品がどのように消費されているのかを把握、それに基づき、多くの魅力的な製品を開発してきました。しかし、そうした調査手法が、本当に消費者の「本音」を知ることができていたのか、そこに少なからず限界を感じることがあったそうです。

「長らくやってきた代表的な調査方法の 1 つに、こちらで用意した質問状を消費者の方々にお配りし、回答していただくというものがあるのですが、その方法だと、どうしても本当の意味でリアルな購買行動を掴むことができません。そこで近年では SNS のデータを対象とした消費者分析も実施。今回のプロジェクトもそこから派生したものです。」(小林さん)

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「これまでの SNS 調査はテキストベースだったのですが、近年は Instagram など、写真ベースの SNS が大きな人気を博しています。そして、そこには、ものすごく明確な意図が込められているんです。脳が、言葉ではなくビジュアルで考えているという話を聞いたこともあったので、写真からそうした "意味" を見出すことができたら、より力強いコンシューマー インサイトを導き出せるのではないかと考えました。ただ、それを人力でやるのは現実的ではありません。そこで AI を活用できないだろうかと考えました。なお、弊社のインサイト部門では Innovation Fund を設定し、新しい消費者理解のアプローチや新しい会社との取り組みを促進しています。ナレッジ&インサイツ マネージャーがビジネス課題と興味に基づき、自らアイデアをピッチすることで Fund を活用、常に新しいインサイト開発に挑戦していくことを目指しています。結果として、失敗しても、学びがあればよい、ということに主眼をおいており、今回の AI プロジェクトもその一環となります。」(森口さん)

この着想を実現するため、小林さんらは、約 1 年前、グローバルでの交流がある Google を訪問。お互いの知見を交換するセッションを行いました。そこで分かったのが、この取り組みが、これまでにない画期的なものであったこと。

「グローバルでお付き合いがあるのはもちろんのこと、昨年のセッション以前からインサイト ワークショップ的なものをやらせていただいていました。その時は AI ではなく、Google のトレンドや Google サーベイといった機能をご紹介いただいていたのですが、そうした中で、より一緒に協力をしてビジネス課題に取り組んでいきたいと感じていました。」(小林さん)

「Google はスマートフォンでも大きなプラットフォームを持っており、そこで蓄積される知見やデータは膨大です。そこには様々な人の気持ちや行動の記録が蓄積されていることは疑いようがありません。昨年のセッションではまず、膨大なデータを AI で解析するケーススタディをご紹介いただいたのですが、当時はまだ生産や管理の現場での事例がほとんどで、リアルなマーケティングでの正式な活用事例はありませんでした。そこで、SNS の画像データを元にドリンクの消費シーンを分析するというアイデアを提案。AI を使った開発で多くの実績を持つブレインパッドさんをご紹介いただき、本格的にプロジェクトが動き始めました。」(森口さん)

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「確かに、その当時はまだ AI をリアルなマーケティングで使おうというケースは多くありませんでした。Web マーケティングで、広告の配信を最適化するなどといった使い方はされていたものの、"インサイトを引き出す" という事例は聞いたことがありません。ですので、これは我々としても新しいチャレンジ。とても面白そうだと感じました。」(早川さん)

「Google さん、ブレインパッドさんから、過去にそういった正式な事例がないと言われたのは、実はちょっとうれしかったですね、それでやる気が増した面もあります(笑)。」(森口さん)

Cloud Vision API を駆使して画像に込められた "意味" を可視化

多くの実績を誇るブレインパッドをして「チャレンジ」だと言わしめた、SNS 上の画像解析。では、それはどのように実現されたのでしょうか?ブレインパッド早川さんに、具体的な仕組みについて聞いてみました。

「具体的には 3 つのステップを踏んでいます。まず、SNS に投稿された画像の中から、我々が扱っているソーシャル リスニング プラットフォーム『Crimson Hexagon ForSight™ Platform(クリムゾンヘキサゴン フォーサイト プラットフォーム)』を使用し、コカ・コーラのロゴが写っている画像だけを抽出。続いて、抽出された約 10 万枚の画像データを機械学習を用いて整理し、自動販売機や野球スタジアムのバックスクリーンなどに掲出された広告ロゴが映り込んでいるだけの画像を排除したうえで、Google Cloud Vision API を使って、一緒に映り込んでいる物体の識別を行います。具体的には、海でコカ・コーラを飲んでいる写真の場合は "Ocean" だったり、"Seaside" だったりといったタグが出力されてくるので、これを解析していきました。」(早川さん)

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この際、苦心したのが、無数に出力されるタグをどのように整理していくか。今回の取り組みでは、ブレインパッドが得意とするデータ分析手法をフル活用。共起ネットワーク(文書から、その文書を特徴づける語の抽出を行い、それら特徴語同士が、どういったケースで同時に出現することが多いのかを可視化する手法)や、階層クラスタリング(異なる性質のものが混じり合っているデータの中から、類似度に応じて「クラスタ」を作り分類していく手法)などを駆使することで、SNS 上の画像データに込められた "意味" を可視化していったそうです。

「そうして上がってきた情報の中には、当然、これまでの調査で明らかになっていたものも多かったのですが、思わぬ発見も多くありました。たとえば、自宅でペットと過ごす日常のひとコマにコカ・コーラという写真が意外に多く見つかりました。これはこれまでの調査ではほとんど目にすることはありませんでした。人とペットとの新しい関係性が、コカ・コーラの新たなドリンキング・モーメントを創り出しているのかもしれませんね。」(森口さん)

そして、現在、このプロジェクトは次なるフェーズへ。今回の成功を活かし、さらに多くのインサイトを引き出す、新たな取り組みが始まっています。

「まず、やってみたいのがエモーションの取得。コカ・コーラと一緒に映り込んでいる表情を解析することで、写真に込められた意図をより深く知ることができるのではないかと考えています。しかし、これは実際に試してみたところ、そもそも SNS 上に顔が映り込んでいる写真が少ないという壁に直面。表情から感情をどのように解釈するかというのも大きな課題になっていますね。ただ、Twitter のようなテキストと紐付いている写真については、そこから、その時の感情や思いを引き出すことができるのではないかと思っています。」(森口さん)

「また、今回の取り組み以外にも AI がリアルのマーケティングに活用できるシーンは多いと感じました。たとえば弊社には、たくさんの市場調査データが存在するのですが、それらは必ずしも 1 つに統合されているわけではありません。過去の調査データもたくさんあります。こうしたデータを効率的に活用する際に、AI やマシン ラーニングが役立つのではないかと期待しています。」(小林さん)

「そうした取り組みを具現化していくに際し、Google が、自らのサービスにおいて AI を積極活用し、その知見をプロダクトにきちんと反映してくれているところが頼もしかったですね。AI はまだ新しい技術なので、使ってみないと分からない苦労が多くありますから。たとえば、この間 β 版がリリースされた Cloud AutoML などは気になっている技術の 1 つ。こうした最新機能も駆使して、より効率的な画像分析ができるようにしていきたいと考えています。」(早川さん)

※ COCA-COLA、コカ・コーラは The Coca-Cola Company, Limited の登録商標です。

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